小児期の心的外傷がうつ病に及ぼす影響とは?

小児期の心的外傷は、大うつ病性障害(MDD)の重要なリスク因子です1。MDD患者では、対照健康成人に比べ、小児期に心的外傷を経験した割合が有意に高く、小児期に心的外傷を経験すると、MDDの早期発症や再発のリスクが高まり、経過の慢性化が促進されやすくなります1-2

 

 

 

MDD患者の多くが小児期に心的外傷を経験している

小児期に心的外傷を経験しているとMDDの経過が慢性化しやすい

小児期の心的外傷または小児期の逆境体験(Adverse Childhood Experience、ACE)には様々な種類があり、人から受けた精神的、性的および身体的虐待、家族の離別、家庭崩壊もしくは家庭内トラブル、自然災害の経験などが挙げられます1,2

Early-Life Stress Questionnaire(ELSQ)19による自己申告による小児期のトラウマの評価によると、最適なうつ病治療を予測するための国際研究(International Study to Predict Optimized Treatment for Depression、iSPOT-D)に参加した大うつ病性障害(MDD)患者1008例のうち、62.5%が小児期に2件以上の心的外傷を経験しており、一方、対照健康成人で同様の経験があったのは336例のうち28.4%でした(p<0.01、χ2検定)1

 

精神的、心理社会的および身体的健康に対する悪影響

ACEは認知および脳の発達に悪影響を及ぼす

小児期の心的外傷は、認知機能の発達に悪影響を及ぼし、IQ、複雑な視覚的注意、言語記憶、学習能力、計画能力、問題解決能力、処理速度および学業成績(語学、読解および数学)の低さとして顕著に表れます3

ACEを1度でも経験していると、ACEの経験がない場合に比べ、青年期に危険行為(喫煙、飲酒・薬物使用および自殺企図)に及ぶ傾向が有意に高くなります(p<0.0001、 Mantel-Haenszel χ2検定)2

また、ACEの経験があると、家庭[ACEスコア0 vs 1-2: 7.6% vs 11.5%、95% CI 1.5 (1.3‐1.8)]、仕事[4.1% vs 6.5%, 95% CI 1.4 (1.1‐1.7) ]および金銭に関する深刻な問題[7.4% vs 12.6%、95% CI 1.6 (1.3‐1.9)]やストレスを抱える傾向が強くなります[11.3% vs 16.6%、95% CI 1.4 (1.2‐1.6)]2。さらに、成人期におけるMDD発症リスクについてもACEの経験によってそのリスクが高くなることが示されています。ACEスコアと成人期のリスク行動/併存疾患との関連は、18〜59歳の1501人の参加者を対象とした研究で評価されました。 ACEスコアは、成人期のうつ病(AOR = 1.37、95% CI: 1.27–1.48)、心的外傷後ストレス障害(AOR = 1.32、95% CI: 1.23–1.42)、飲酒(AOR = 1.09、95% CI: 1.00–1.09)、慢性疾患のリスク(AOR = 1.17、95% CI: 1.06–1.28)の増加と関連していました4

ACEの身体的健康への悪影響には、小児におけるテロメアの短縮、炎症バイオマーカーの増加を伴う低グレードの全身性炎症、高血圧、成人における肥満割合率の高さなどがあげられます5-7

ストレスによるテロメアの短縮は、細胞の老化のメカニズムであり、生涯にわたる健康に影響を与える可能性があります。これについてはUKで行われた236名の5歳小児を10歳までフォローアップした研究において、2つあるいはそれ以上のACEを経験した小児ではテロメアが有意に短縮していることが報告されました(N=236、B = −0.052, s.e. = 0.021, p = 0.015;最小二乗重回帰分析)5。ACEと低グレードの全身性炎症のリスクについては、ニュージーランドでの成人病のリスク増加への研究が行われ、小児期にACEを経験することで、成人期おけるC反応性タンパク質の発現が、ストレスや生活様式とは無関係に有意に増加していることが明らかとなりました(N = 972, RR = 1.80, 95% CI = 1.26–2.58;Cox 回帰分析)6 。また、小児期のACEとメタボリックシンドロームの関連は、カナダの研究グループによって、MDDおよび双極性I / II障害のある成人(N= 373)において小児期のACEの有無を比較したところ、小児期のACE有りのグループでメタボリックシンドロームは83例(22.25%)に認められました。さらにACEを経験した人は血圧が高く(収縮期血圧 p= 0.04、拡張期血圧 p = 0.38;t検定)、多くが肥満の基準を満たしていました(45.28% vs. 32.88%、p = 0.01;t検定) 7

Our correspondent’s highlights from the symposium are meant as a fair representation of the scientific content presented. The views and opinions expressed on this page do not necessarily reflect those of Lundbeck.

参考文献

  1. Williams LM, et al. Transl Psychiatry 2016;6:e799.
  2. Hillis SD, et al. Pediatrics 2004;113:320–7.
  3. De Bellis MD, et al. Child Adolesc Psychiatr Clin N Am 2014;23(2):185–222.
  4. “Chang X et al., PLoS One. 2019; 14(2): e0211850 
  5. Shalev I, et al. Mol Psychiatry 2013;18:576–81.
  6. Danese A, et al. PNAS 2007;104:1319–24.
  7. McIntyre RS, et al. Int J Psychiatry Med 2012;43:165–77.