統合失調症に関連する稀少変異、コード領域の遺伝子10個から発見

コード領域の遺伝子10個における極めて稀な変異(URV)が、統合失調症の発症リスク上昇に関連するというメタ解析の結果が明らかになった。米マサチューセッツ総合病院のTarjinder Singhらの報告で、詳細は「Nature」2022年4月21日号に掲載された1

本研究では統合失調症に関連するコード領域の遺伝子について大規模な解析を行うことを目的として、SCHEMA(Schizophrenia Exome Sequencing Meta-Analysis)コンソーシアムを結成。既存の大規模データベースであるgnomAD(Genome Aggregation Database)からも対照データを追加し、既報の7,979例2-7から今回16,269例を追加した統合失調症患者24,248例、精神疾患の既往のない対照97,322例のエクソーム解析のデータを収集した。病原性の高い変異を探索するため、マイナーアレル数(MAC)5以下と極めて稀少で、かつタンパク質短縮変異(PTV)または病原性(MPCスコア)の高いミスセンス変異に焦点を絞り、総和検定(burden test)を用いた症例対照メタ解析を行った。次いで、既報の統合失調症の発端者3,402例とその両親を一組とする「トリオ解析」を実施。特定したde novo変異(新生突然変異)のリスクも合わせて評価した。

その結果、コード領域の遺伝子10個のURVが統合失調症の発症リスクに有意に関連することが分かった(P<2.14×10^(-6)、23,321回の検定でP<0.05に相当)。この最も強い関連性を呈する遺伝子のURVによる発症のオッズ比(OR)は、3-50の範囲で認められた。また、偽陽性となる割合(FDR)を5%未満となる有意基準(P=8.23×10^(-5))を採用した場合、さらに遺伝子22個のURVが追加で見出された。

発見されたURVは、統合失調症の発症機序としてグルタミン酸作動性神経伝達の機能低下説を支持するものであった。例えば、グルタミン酸作動性神経伝達に関わるNMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)受容体サブユニットGRIN2AのURVは、統合失調症のリスク上昇に関連していることが判明した〔PTVとMPCスコア3点超のミスセンス変異(クラスI変異):OR 24.1、95%信頼区間(CI)5.36-221、MPC スコア2~3点のミスセンス変異(クラスII変異):同2.37、1.1-4.92〕。また、AMPA(α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソキサゾールプロピオン酸)受容体サブユニットのGRIA3のURVもリスク上昇に関連していた(クラスI変異:同20.1、4.28-188)。

さらに、URVと生物学的経路との関連性を調べるため、既存の生物学的経路のデータベース(Gene Ontology、Reactome、KEGG)から抽出した遺伝子セットについて、統合失調症患者におけるURVの超過負担を調べるエンリッチメント解析を実施した。その結果、遺伝子セット33個では、統合失調症群において対照群よりもURVの頻度が有意に高かった(P<2.9×10^(-5))。これらの遺伝子はシナプス後肥厚やクロマチン修飾、イオンの膜輸送の制御といった分子機能に関連していた。URVの頻度は脳特異的に発現する遺伝子で高く、この傾向は前頭葉皮質で最も顕著であった(P=1.63×10^(-8)、データ詳細は参考文献1Table S8参照)。

統合失調症のリスク遺伝子におけるURVと一般的変異の重複度も評価した。統合失調症における既存の最大規模のゲノムワイド関連解析で一般的変異が見つかった遺伝子座287個について精査したところ、そのうち64個はコード領域にあり重要度が高いと判定された。それらの遺伝子座では統合失調症群の方が対照群よりもURVの頻度が有意に高かった(クラスI変異:OR 1.37、95%CI 1.13-1.67、データ詳細は、参考文献1Fig. 4aおよびSupplementary Table 12参照)。このことから、URVと一般的変異は、発症機序となる生物学的経路を部分的には共有していることが示唆された。

さらに、統合失調症と重度神経発達障害、自閉症スペクトラム障害(ASD)との間でリスク遺伝子にURVの重複があるのかどうかも検討した。最新の研究報告8,9から、重度神経発達障害に関連するde novo変異の遺伝子299個、ASDに関連する遺伝子102 個を収集。解析した結果、統合失調症群では対照群よりもURVの頻度が高かった(重度神経発達障害に対するクラスI変異:同1.44、1.3-1.6、ASDに対するクラスI変異:同1.45、1.23-1.72、データ詳細はFig. 5a及びSupplementary Table 12参照)。重複するURVは病態により異なっており、統合失調症と神経発達障害ではURVの一部が共通していた。

Singhらは「これまでで最大規模となるエクソーム解析のメタ解析により、コード領域で破壊的かつ重大な影響をもたらし、統合失調症のリスクを上昇させる遺伝子を特定することができた」と述べている。(編集協力HealthDay)

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参考文献

  1. Singh T, et al. Nature. 2022 April;604(7906): 509-516.
  2. Genovese, G. et al. Nat. Neurosci. 2016;19:1433-1441.
  3. Singh, T. et al. Nat. Genet. 2017;49 :1167-1173.
  4. Fromer, M. et al. Nature. 2016 ;506 :179-184.
  5. Purcell, S. M. et al. Nature. 2014 ;506 :185-190.
  6. Singh, T. et al. Nat. Neurosci. 2016 ;19 :571-577.
  7. Howrigan, D. P. et al. Nat. Neurosci. 2020 ;23:185-193.
  8. Satterstrom, F. K. et al. Cell. 2020;180:568-584).
  9. Kaplanis, J. et al. Nature. 2020;586 :757-762.